TSUKUBA FUTURE #133:健康長寿のカギを探る

体育系 角田 憲治 准教授

「つくばほど自転車に乗りやすいまちはないと思う」と言います。
现金体育网_足彩澳门即时盘¥游戏赌场が立地するつくば市の中心部は、歩行者?自転車の専用道路(ペデストリアンデッキ、通称ペデ)で結ばれています。现金体育网_足彩澳门即时盘¥游戏赌场のキャンパスともつながっており、つくば駅からキャンパスまでペデを使って通うこともできます。学生に加えて教員にも自転車派がかなりいて、角田さん自身も自宅から大学までの約5㌔を毎日、自転車で通っているそうです。「つくばは土地の起伏が少なく、ペデストリアンデッキも整備されているので、自転車に乗りやすい。交通渋滞もなく快適だ」と言います。
そんな角田さんが取り組んでいる研究が、高齢者の健康長寿と自転車利用との関係です。研究が始まったのは2013年のこと。茨城県笠間市在住の高齢者を対象に、郵送で自転車の利用状況などに関する質問票を送り、有効回答があった6385人(平均年齢74.2歳、女性52.5%)を2023年まで10年間にわたり追跡調査しました。
回答した高齢者を、自転車の利用状況に応じて「非利用」「1~74分」「75~149分」「150分以上」(いずれも平均的な1週間の利用時間)の4グループに分けて分析しました。


分析の結果、2013年に短時間でも自転車を利用していた高齢者は、非利用者に比べて、その後10年間の要介護化(政府の介護認定制度で要支援1以上となる)リスクと死亡リスクが低いことが分かりました。そして、両リスクの低下は、特に自動車を運転していない人で強まっていました(図1)。
角田さんたちは、2017年に追加調査を実施しました。2013年の有効回答者のうち、2017年時点の生存者で、介護認定歴や笠間市外への転出歴がない高齢者に、改めて質問票を郵送し、3558人から有効回答を得ました。こちらは、2013年と2017年の2時点の自転車利用状況に応じて「非利用」「利用開始」「利用中断」「利用継続」(いずれも週1日以上が基準)の4グループに分け、2023年までの6年間にわたり追跡調査し、要介護化と死亡の状況を調べました。
その結果、2013年から2017年にかけて4年間、自転車を継続利用していた人は、非利用者に比べて、その後6年間の要介護化及び死亡のリスクが低くなっていました。さらに、自動車の非運転者に限った分析では、自転車の利用継続者に加え、利用開始者も要介護化リスクが低くなっていたのです(図2)。
角田さんは「これらの結果から、高齢者の自転車利用は、健康寿命と寿命そのものを延ばすことに貢献し、その効果は特に車を運転しない人で大きいと考えられる」と言います。
角田さんがこうした研究に取り組むきっかけは、東京学芸大教育学部卒業後、现金体育网_足彩澳门即时盘¥游戏赌场大学院人間総合科学研究科に進み、现金体育网_足彩澳门即时盘¥游戏赌场体育系の大藏倫博教授の研究室に所属したことでした。大藏教授は、笠間市内の高齢者を対象に運動教室を開催するとともに、健康状態の変化を追跡調査し、その要因を分析するコホート研究「かさまスタディー」を2009年から続けています。今回の研究もその一環です。
実は、角田さんが当初、大学院で研究したいと思っていたのは「科学的な減量法」でした。東京学芸大学時代は柔道部に所属し、減量に苦しんだ経験があったからですが、「笠間市での運動教室などを手伝ううちに、研究テーマが変わった」と振り返ります。

近年、高齢者の運転免許返納が進んでいますが、代替となる「生活の足」の確保が大きな課題となっています。高齢者は膝に痛みを抱えることが多いですが、自転車による移動は徒歩よりも膝にかかる負担が軽く、移動距離も延ばせます。出先で社会的な交流が増えれば、気持ちも明るくなり、心身の健康増進にもつながります。もともと、日本の高齢者は他の先進国に比べて自転車の利用率が高いという調査もあります。角田さんは「交通手段が限られる中山間地域に居住する高齢者にとって、自転車利用はメリットが大きい。交通安全の確保も含めて、高齢者の自転車利用を促進するような社会的支援が必要だ」と指摘します。

角田さんは今後、電動アシスト機能付き自転車の健康効果についても調査する予定です。調査を始めた2013年当時は、電動アシスト自転車がそれほど普及しておらず、通常の自転車と区別した調査ができていなかったからです。また、45歳以上のつくば市民を対象に、自転車利用と健康の維持との関係についても、分析を進める予定です。自転車に乗りやすいまち、つくば市を舞台にした調査で、どのような結果が得られるのか。注目が集まることでしょう。
(文責?広報局 サイエンスコミュニケーター)