標識なしで細胞小器官の動きや空間配置を高精細に観察する
ハロ(光輪)と呼ばれる偽像の発生を抑制できる外部アポダイズド位相差顕微鏡を用い、核やミトコンドリアなどの細胞小器官を高精細に観察し、その動きや配置、形の制御が高い安定性をもつことを解明しました。また、構成成分が未解明の生体分子凝縮体様構造体を非標識で観察することにも成功しました。
細胞の中には、遺伝情報を蓄える核や、生命活動に必要なエネルギーを生み出すミトコンドリアなど、さまざまな構造体(オルガネラ)が存在しています。これらのうち、核やミトコンドリアは脂質膜に包まれた「膜性オルガネラ」ですが、膜を持たず分子の集合によって形成される「非膜性オルガネラ」も知られています。こうした「細胞小器官」の形?数?空間配置は、細胞の機能維持や運命決定など、生命現象の根幹を支える極めて重要な要素です。
これまで細胞小器官の観察には、主に蛍光標識イメージング法が用いられてきました。しかし蛍光観察には、強い光による細胞へのダメージ(光毒性)や蛍光色素の退色(光退色)といった課題があり、同時に観察できる構造体の数にも限界がありました。そのため、細胞を染めずに透明な構造を可視化できる位相差顕微鏡が再び注目されていますが、従来法では光の回折によって「ハロ(halo、光輪)」と呼ばれる偽像が生じるという新たな問題がありました。
本研究では、このハロを抑える光学的仕組みを導入した外部アポダイズド位相差(ExAPC)顕微鏡法を用い、細胞周期などの生命イベントにおいて、核や核小体、ミトコンドリアなど複数の細胞小器官を非標識のまま高精細に観察することに成功しました。さらに、構成成分が未解明の生体分子凝縮体様構造体を世界で初めて明瞭に可視化しました。加えて、脂肪滴の成長過程やミトコンドリアの分裂?融合、薬剤応答の観察を通して、個々の構造体が多様な動き(ヘテロジェナイティ)を示しながらも、全体としては高い秩序と安定性(ロバスト性)を維持していることを明らかにしました。
これらの成果は、ExAPC顕微鏡法が生命現象を「ありのまま」に可視化する強力な観察技術であることを示しています。本技術は今後、がん?代謝疾患?神経変性疾患など、細胞内構造の形や数、空間配置の異常が関与する多様な病態の解明や、新たな治療法の開発につながることが期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
现金体育网_足彩澳门即时盘¥游戏赌场医学医療系大野 博 助教
宮本 崇史 助教
掲載論文
- 【題名】
-
Label-free imaging of intracellular structures in living mammalian cells via external apodization phase-contrast microscopy
(外部アポダイズド位相差顕微鏡による細胞内構造のラベルフリー観察) - 【掲載誌】
- The FEBS Journal
- 【DOI】
- 10.1111/febs.70286